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最高裁判所第二小法廷 昭和23年(れ)1142号 判決 1948年12月04日

主文

本件各上告を棄却する。

理由

被告人渡辺弥一郎の辯護人大山菊治及び其の餘の被告人等の辯護人大山菊治の各上告趣意は後記の通りである。

被告人渡辺弥一郎辯護人大山菊治の上告趣意第二點について。

記録を精査すると、昭和二三年七月一四日の原審第一回公判期日において、被告人渡辺弥一郎の辯護人深井竜太郎から、同人の擔當する別個の刑事々件の公判期日が、富山簡易裁判所によって、同一日時に指定されたことを事由として、本件右期日の變更を申請したのであるが、原審はこれを許さず、同期日に、右辯護人不出頭のまゝ、第一回公判を開廷した上、公判手續を進行し、同被告人並に相被告人全部の訊問及び證據調べを終了したことは、所論の通りである。かくの如く同一日時に公判期日が重複して指定された場合には、裁判所としては、その間に處して適當な考慮を拂ひ、辯護人の支障を來さないように措置を講ずべきことは、當然であるが、相被告人のあるような場合論旨の如く、必ず、審理を分離し、期日を變更しなければならぬと言う譯のものではない。記録によると、原審は被告人渡辺弥一郎からの申請もあったので、本件の審理を右第一回公判期日のみで終了せず、公判を續行する旨を宣告し、次回期日を同月二三日と指定して、同期日には被告人渡辺弥一郎の辯護人深井竜太郎も出頭列席の上、第二回公判を開廷したことが明らかである。されば同辯護人としては同期日までの間に準備を整へ、第一回公判の審理に不盡の點があれば、第二回公判期日において、被告人等に對する補充訊問なり、證據調の再開なりを請求して、辯護權を充分に行使すべきであり、且又之を行使し得る機會もあったのである。然るに第二回公判調書を見るに、同辯護人より、かゝる請求のあったことは認められないし、原審がその請求を不當に抑壓したと認むべき資料もないのであるから、同辯護人はかゝる請求をする必要がないものとして、直ちに辯論をしたものと認むる外はない。されば同辯護人の提出した原審第一回公判期日の變更申請を、原審において諸般の事情を考慮して、之を許容しなかったとしても、本件は刑事訴訟法第三三四條所定の事件に該當しないのであるから、之を以て所論のごとく、辯護權の行使を不當に制限したものとは言へない。從って論旨は理由がない。

被告人藤井正尚、同木村重光、同天池正一郎の辯護人大山菊治の上告趣意第一點について。

原審判決が(一)被告人藤井正尚に對する檢事の聽取書中の同人の供述記載、(二)第一審における共同被告人木戸喜八郎に對する檢事調書中の同人の供述記載、及び(三)原審における共同被告人野原甚一の原審公判廷における供述を綜合證據として、判示第二の事実を認定していることは所論の通りである。從って被告人藤井正尚に對する關係においては、被告人本人の公判廷外の自白の外は共同被告人の供述により、又被告人木村重光、同天池正一郎に對する關係においては、すべて共同被告人の供述により、右事実を認定したことになるのであるが共同被告人の供述は刑訴應急措置法第一〇條第三項にいわゆる「本人の自白」に該らないことは當裁判所の判例とするところであり(昭和二三年(れ)第四〇九號同年七月二二日第一小法廷判決)、また共同被告人の供述といへども、被告人本人の自白と相俟って犯罪事実の全部を確認するに役立つ限り、同法條の「本人の自白」の補強證據となり得ることも當裁判所の判例とするところであり(昭和二三年(れ)第一六七號同年七月一九日大法廷判決及び昭和二二年(れ)第一八八號昭和二三年七月七日大法廷判決参照)、然も本件においては前記の各供述は互に相俟って、各被告人等の判示第二の事実を確認するに充分である。(被告人野原甚一の供述は所論の如く供興者側の供興の點についてのみ證據とされたものではなく、その供述が判示第二の事実全部について、他の證據と綜合的に證據として採用されたものである。)從って、原判決は所論のごとく、前記法條にいわゆる「本人の自白」を唯一の證據として、被告人等を斷罪したものではないのである。

次に、假りに所論の如く被告人等が公判廷において前記の各聽取書の記載と異る供述をなし、右聽取書における供述を取消したとしても、裁判所は刑事訴訟法第三四〇條による證據調をした上、諸般の資料に照らし、右聽取書の記載の方が真実に合するとの心證を得たときは、これを證據に採るも差支へなく、そのいづれを措信し採用するかは事実審裁判所の自由裁量に委されているところである。從って原判決には何等所論のような採證の法則に違背した違法はない。

從って論旨は理由がない。

同第二點について。

裁判所が選舉法違反の事実を認定して、被告人に有罪の判決を言渡すにあたり、選舉權、被選舉權を停止しないという宣告をするかしないかは、一に事実審裁判所の自由裁量に委されたところである。かりに所論のような事情がありとしても、原審が被告人等に對し選舉權、被選舉權を停止しないとの宣告をしなかったことをもって、実驗則に反するものとすることはできない。論旨は要するに、原審の専權の行使を非難するものであって、上告適法の理由とならない。(その他の判決理由は省略する。)

右の理由により刑事訴訟法第四四六條に從い、主文の如く判決する。

此の判決は裁判官全員の一致した意見である。

(裁判長裁判官 塚崎直義 裁判官 霜山精一 裁判官 栗山茂 裁判官 藤田八郎)

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